一番古い記憶
冬らしい寒さを肌で感じ始めるこの時期にいつも思い出す子供の頃の思い出がある。
兄が難治性のてんかんであると医者に告げられたのが兄が3歳だと聞いている。
多少の医学の知識を持っていた母であるが知人の勧めで自然分娩を選び兄に消えない重荷を背負わせた。
母は告知を受けたその瞬間に兄の将来が見通せたんだと思う。
その日は寒かった。
父は残業で毎晩遅かった。
兄と私はコタツに足を突っ込め横になってた。
裸足の指が汗で気持ち悪かった。
いつまでも夕食の支度が始まる気配が無い。
母も目を開けたまま横になっていた。
陽は傾き部屋はだんだん夕陽の赤で染まりそして暗く寒くなっていった。
突然母は起き上がり、兄と私の手を引いて外に出て歩き出した。
ずっと無言だった。
子供の私にもその異常さは感じた。
向かったのは近くの名鉄線の踏切、遮断器の前で母に手を握られてしばらく立っていた。
記憶はそこまでである。
誰でも想像するように母はその時無理心中を考えていたと認知症になってからそれまで重かった口を開いた。
成長の過程で私の中で作り上げられた記憶かも知れない。
でもあの時の汗をかいたままの素足で運動靴を履かされた気持ちの悪かった感覚が残っている。
今でもコタツには長く入っていたくない。
年子の弟の私が2歳の時の記憶である。