ホタテ貝の謎
久しぶりに夢を見た。
母の夢である。ホタテ貝を食べる母の夢だった。
母がアルツハイマー病だと診断された10年近く前である。
当時、様子のあやしくなってきた父母が気になり隔週で帰郷していた。
いつもバタバタと食事の支度、掃除、用足しをして大阪に戻った。
そして毎年この時期になぜか青森産のホタテ貝のトロ箱と貝殻が勝手口に打ち捨てられているのに気付いていた。
父が亡くなる前年のこの時期に私が帰郷した時にホタテ貝が届いた。
事情のわからない私は発送元の青森県に電話して事情を知った。
事情は母だった。
30年ほど前、母は現役の看護婦、婦長を務めていたようだ。そこで働く母の部下の若い看護婦が旦那からDVを受けており、ある晩母はその女性を連れて帰りそのまま実家のある青森県に向かう夜行列車に乗せたそうである。
もちろん金を渡してだ。
今は幸せに暮らしているとのことだった。
母の病状を知り電話口で泣いていた。
兄の病気も知っていたのでなお悲しいと言った。
ここにまた知らぬ母がいた。
大学に行き上京してからの実家のことはほとんど知らなかった。
今、末期ガンと共に最後を過ごす母を誇りに思う。
そしてこの母のDNAは私が引き継いでいきたい。