さるすべりの木
花や草木の名前を覚えるのが苦手である。
私の周りにはそんな男が多い。
みな、『花より団子』なのである。
『梅は咲いたか桜はまだかいな』の世界の仲間が多い。
そんな仲間たちも案外知っているのがこの『さるすべり』である。
私の父は長野県の山あいの村の出身、たくさんの花、草木の名前を知っていた。
私にこの『さるすべり』を教えてくれたのは父だ。
今はない実家の庭にもさるすべりは植えられていた。
樹の肌を見て名の由来はわかった。
まだインターネットなどない時代に小学校の図書室で調べた。
植物図鑑によると、ツル植物から身を守るために皮が剥がれていくともあった。
静かな植物の世界にもこんな闘いがあるのを知り驚いた。
この時期のさるすべりはきれいだ。
色んな赤があっていい。
白のさるすべりもいい。
花が長持ちするから『百日紅』と書くとも知った。
父の顔を思い出す。
私にさるすべりの名の由来を教えてくれた時の顔を。
そしてまだ小さな孫にも同じ顔をして得意げに同じ説明をしていた父の顔を。
今年もこの季節がやってきている。