記憶再生装置
夏井いつきのご子息、ウェンズデー正人こと家藤正人さんが書いていた。
『季語は記憶再生装置だ』と夏井いつきがよく言っていたと。
私もその通りだと思いあちこちでそんなことを書いてきたが、その言葉を聞いて腑に落ちた。
季語に限らず五感から入ってきたものは脳に伝わり心に届いて私の中にある引き出しの取手に手をかける。
誰もがそんな思いをしたことがあるのではないだろうか。
五感で感じたことの多くは私たちがどこかに持つ引き出しにしまわれるのだと思う。
そして必要に応じて、何かのきっかけでその引き出しは引かれるのだろう。
しまわれたまま終わるものもあるのであろう。
ハンカチは木綿自動車はカローラ
という夏井いつきの俳句が好きである。
この十七音から懐かしさの感情が湧き上がって来る。
大衆車代表のカローラからはかつてのレジャーの代表選手だった家族そろっての日曜日のドライブに車窓から吹き込む夏風までも感じることが出来る。
あの頃は良かったと、年寄りのようなことを言いたくはないが、そんな気持ちにさせる句である。
夏井先生もそんなことを感じながらこの句を考えたのではないだろうか。
写真のミカンは裏で稲作と野菜作りに励む元ゼネコン土木屋の先輩から頂いた。
去年も頂いた甘くて美味いミカンである。
去年の今頃は自動車で仕事場に通っていた。
いろんなことを考えながらハンドルを握っていた。
今晩このミカンを口にした瞬間にその時のことを思い出すに違いない。
今晩はこのミカンが私の味覚による記憶再生装置である。