スプリングバレー
素敵なネーミングのカップである。
たいして春らしさを感じることもなく今年もすでに初夏を迎えたような暖かさである。
高校の授業で出てきた枕草子の『春はあけぼの やうやう白くなりゆく山際 少し明かりて 紫だちたる雲の細くたなびきたる』というくだりを今も記憶している。
子どもの頃、まだ幼稚園にあがる前に母と、父の実家に祖母の看病で長く滞在した。
その頃の視覚の記憶がこの枕草子の冒頭と同じであった。
雪のあまり降らない長野県南部の山あいの寒村の冬は底冷えした。
夜は星が凍りついたようにきらめき、天の川を人口衛生が横切った。
皆、春を待っていたと思う。
寒い寒い明け方に満天の星の夜空が白々と明けていくさまを見たことがあった。
明け方にどうしてもトイレに行きたくなり、疲れた母を起こして引率してもらった。
離れのトイレで用を足し寝床に戻る途中に白々と色の変わっていく山際を目にしたのである。
冷たい明け方であったが、子ども心にも春を感じた。
日本は四季があるからいいと思う。
夏冬ははっきりと春秋はぼんやりと四季を感じさせてくれるのがいい。
言葉で説明の難しいこの『ぼんやり』を清少納言は表現していると思う。
今が落ち着いたらそんな日本の明け方に出会ってきたいと思っている。
今日もまた、なんだか年寄りくさい文章ですね。