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兼題『姫女苑』ひめじょおん

『姫女苑』って知っているだろうか。

都会の真ん中で生まれ育った人間でなければ指し示せば「何だ、それかよ」と口にするであろう誰もが知っている道端に生える雑草である。

 

小さな菊のような、白い花びらの可愛らしい花である。

私の母の思い出を綴った。

俳句の季語を夏井いつきは記憶再生装置だと言う。

私も常々そう思っている。

 

季語ばかりか五感が記憶再生装置である。

そして、年齢とともに衰える人の機能のはずが、不思議とこの五感の記憶再生装置は敏感になっているように思う。

 

◆今週のオススメ「小随筆」
 お便りというよりは、超短い随筆の味わい。人生が見えてくる、 お人柄が見えてくる~♪

 

●背の低い子どもの頃は誰もが地面が友達だ。

歩く道のどこの道端にどんな草が生え、 名も知らぬがどこの花にハナムグリが潜り込んでいて、 どこの角で同級生のタケちゃんが10円玉を拾ったのかをみんな知 っていた。

タケちゃんは10円玉を拾う名人だった。

勉強が出来るわけではなく、 足が早いわけでもないタケちゃんはそんな時だけヒーローだった。

今思えばタケちゃんはクラスで一番背が低かった。

地面に一番近かった。

母と兄と三人で歩く時には母が花の名前を教えてくれた。

ヒメジョオン』小学生の私には漢字など浮かぶはけはなく、 カタカナの『ヒメジョオン』だった。

いつも目にしていた小さな花がそんな名前で意外だった。

小学校から一人帰る道、 タケちゃんのように私もヒーローとしてもて囃されたくて、 重いランドセルを背負って目を皿のように丸くしていつもの道を歩 いて帰った。

そして、 タケちゃんが最近10円玉を見つけた角の手前で私は光る『 ヒメジョオン』の花の頭を見つけたのである。

それは手に取ると花ではなく、ボタンであった。

ヒメジョオン』 に似せたように真ん中の金色に縁どられた丸は黄色、 その金色の外周の丸は白色のロゼットのような高級そうなボタンだ った。

私はボタンをポケットに突っ込み走って家まで帰った。

そしてまだ母が帰ってこないうちに母の木製の裁縫箱の小引出しに 放り込んだのだ。

その引き出しはボタン入れであった。

母がいつからその裁縫箱を使っていたのか聞いたことは無かったが たくさんのいろんなボタンが収まっていた。

子供ながらに男の触るものではないと思いながらも母の裁縫箱が好 きであった。

特にこのボタン入れをときどき覗くのが好きであった。

いつかは見つかってしまい母に怒られるのではないかと思ったのだ がその日は来なかった。

そして今その裁縫箱は私の手元にある。 母には必要の無くなったこの裁縫箱はいずれ形見と変わる。

この魔法の裁縫箱は私の記憶再生装置でもある。

そして、 引き出しの『ヒメジョオン』 はいつでも若くはつらつとした母を思い出させてくれる。/ 宮島ひでき

 

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