兼題『竜田姫』
一雨ごとに秋は深まりゆきます。
秋雨に趣きを感じてこの季節を楽しまなければならないのでしょうが、出がけの雨は嫌なものです。
いつもの俳句投稿サイト、兼題は『竜田姫』でした。
俳句は『並』でした。
時々『人』ではなく、早く本当の『人』に近づけるようこの落ち着いた季節に真剣に取り組んでみたいと思います。
兼題『竜田姫』
竜田山のふもとの診療所に通っていた。
どこかが悪かったわけではない。
省エネルギーの新しい設備の設計提案の営業に行っていた。
それが私のサラリーマン人生最後の仕事だったのである。
日進月歩の技術の進歩で医療施設はすぐ陳腐化する。
そんな技術革新のスピードに技術屋は日々勉強して追いついていかなければならない。
業務に追われながらの自身の勉強の毎日で大変である。
私は口だけの営業マン、のんきなサラリーマン人生を送っていた。
少し足を伸ばせば法隆寺もあり、万葉ロマンにひたれる場所であった。
実は竜田山という山はない。
生駒山地から連なる低い山々のどれを指すわけではないがその最南端あたりを竜田山と地元の人間は言っている事を今回初めて知った。
私が勝手に竜田山と信じていたその山は三室山であった。
大和川に流れ込む三室山沿いに流れる竜田川は美しい紅葉で三室山と一体化して、季節が来ると観光名所の一つになっている。
大和川などという日本を代表するような名をもらいながら、かつては日本で一番汚い川であった。
大和の国を守る西の竜田姫は美しい秋をつかさどる神であるならば、さぞ嘆いたことであろう。
竜田姫のお膝元の診療所での仕事は結局私たちの思うような方向には進まなかった。
理想と現実がある。
竜田姫の足もとを流れる美しい水が汚れた大和川に流れ込む事実。
住民の健康を守る診療所の本来持つべき機能と予算。
理想と現実である。
しかしここから続く大和平野は美しい。
そんなつまらぬ理想と現実を飲み込む緑とこの先は黄金色が待ち受ける。