『里の秋』
静かな秋の午後である。
いつもこの時期思い出すのが童謡の『里の秋』である。
今の小学生の音楽の教科書を目にしたことがないから分からないが、こんな童謡はいつまでも残しておいてもらいたいものである。
♫静かな静かな里の秋、で始まるあの童謡である。
子どもの頃、両親、兄と過ごした豊川市のアパートから自転車で少し走ると穂ノ原という地名、広い農地が広がりその先に赤塚山があった。
なんでもいどこの地方都市にもありそうな田舎の風景がいつまでも私の心に残るのである。
そして、この時期『里の秋』の調べとともに私の記憶に甦るのである。
この曲が終戦の暮れに復員兵や引き揚げ者たちを励ますために作られた曲だと知ったのは中学生くらいの時だった。
その時思ったのは、聴いた人たちはかえって悲しくなってしまったのではないだろうか、であった。
しかし、その悲しさは思い出があるからこそのことであり、それまで忘れていた感情かも知れないとも思ったのを覚えている。
戦争という異常な空間と時間の中でこの曲は普通の人間に戻るための軽いストレスを与えるリハビリ曲なのではないかと解釈していた。