年末の予定
寒くなった。
冬がやって来たって感じである。
こんな空気の冷たさが私に中学生の頃を思い出させる。
愛知県豊橋市に住んでいた。
太平洋岸式気候で冬は雲一つない晴天が続き、渥美半島の表浜はずっと砂浜の続く知る人間には人気のスポットだった。
NHKの朝の連続ドラマ『エール』の主題歌と共に主人公の二人が毎朝歩いた砂浜である。
その頃はふと思いつくと自転車にまたがっていた。
ジーパンの尻に文庫本の厚みを感じながらひたすらペダルを漕ぐ。
豊橋の街中を抜けてしばらくすれば見渡す限りのキャベツ畑である。
そこから見えるのは地平線、一段降りれば表浜が広がる。
私が行く平日の午後に人はいない。
しばらく裸足で波打ち際を歩き、風をしのげて陽の当たるテトラポットの陰を探す。
それから小一時間文庫本を開く。
夕方に近づき徐々に寒さは増してくる。
それから帰路につくのである。
母が仕事から帰り、遅い夕食の支度を始める頃帰るのである。
スマホも無ければ携帯電話も無い。
母は私がどこに行っていたのか、何をしていたかも知らない。
聞かれる事もなければ詮索される事も無かった。
兄の具合が悪くなければそんなふうに山に、海に行き一人でいる時間があった。
それから高校を卒業して私は魚市場で働き、東京で学生生活を送って今に至っている。
思い起こすと高校卒業以降ずっとあんな時間は無かったように思う。
何もしないボーッとした時間が今の私の何かを作り上げているように思う。
時代は変わりその頃よりも時間は早く進むようにもなり、ボーッとする時間に罪悪感さえ覚える。
『ねばならない』事をするために考える事と『ボーッとしている』間に考える事は違う。
このニューコロナ禍のなか母は他界し、この年末は兄貴の施設は面会禁止である。
久しぶりに本当の自分の時間が持てそうである。
一日二日、ボーッとした時間を作りたいと思っている。